公開日 2021年7月7日

労働供給制約による米賃金上昇はなお問題

賃金が上昇している要因は、失業保険給付上乗せ措置だけではない。経済活動が再開されつつあるなかで労働需要が盛り上がる半面、感染懸念や失業保険給付上乗せ措置により、労働供給が増えにくくなっていることが、最近の賃金上昇の原因と考えられる。
労働供給制約による米賃金上昇はなお問題

供給制約による賃金上昇は続いている

米雇用統計では、労働供給制約にもかかわらず、雇用者数が大幅に増加したことがプラスに評価されたためか、米長期金利は低下し、米国株価は続伸した。

ただ、供給制約のなかでの雇用増加は当然ながら賃金を上昇させている。賃金上昇は企業のコスト増加を通じて、今後、インフレを加速させるだろう。

確かに、全産業の時間当たり賃金は前月比0.3%上昇(4月は同0.7%上昇、5月は0.4%上昇)と伸びが鈍化し、沈静化しているようにもみえなくない。

ただ、これは、娯楽・宿泊業など低賃金業種の雇用がとくに増加し、それが平均賃金を低下させる効果を持ったためだ。

業種別にみると、例えば、輸送・倉庫業の賃金は5月前月比0.7%上昇のあと、6月は同1.8%と上昇テンポが加速した。娯楽・宿泊業も5月前月比1.1%上昇、6月は同1.0%と上昇テンポは高いままだ。

賃金上昇は失業保険給付の上乗せ措置が問題で、この措置は9月には撤廃されるため、労働供給も増加していくのではないかとの見方も多い。

失業保険狙いの失業者だけでなく、感染懸念の非労働力人口増加が問題

だが、賃金が上昇している要因は、失業保険給付上乗せ措置だけではない。感染などに対する懸念から職場復帰をためらっている人、あるいは子供の保育施設の閉鎖などによって、就業できなくなっている人などが多いと言われ、それが労働供給を制約している。

感染懸念などから復職できない、あるいは復職をためらっている人々の動きは、統計上、「非労働力人口」の増加として現れている。

生産年齢人口(16歳以上人口)は労働力人口と非労働力人口に分けられる。労働力人口は就業者と失業者を合計したもので、労働力人口が生産年齢人口に占める比率は労働参加率と言われる。

また、失業率は労働力人口に占める失業者の比率のことだ。これに対して、非労働力人口は、主として通学者、家事従事者のほか、病弱や高齢が理由で生産活動に従事していない人のことを指す。

仕事をしていないという点で、失業者と非労働力人口は同じであり、両者の線引きは難しいが、米国では過去4週間の間に求職活動を行っている(その結果として失業保険を申請する)人が失業者、そうでない人が非労働力人口と定義される。

図1.png

図1でみるように、非労働力人口の比率は、コロナ前の2019年12月の36.7%から20年4月には一時40%近くに上昇した後やや低下したが、6月時点でも38.4%とコロナ前を1.7%ポイント上回っている。

過去のリセッション時にも、同比率がこれほど大きく上昇することはみられなかった。

リーマンショック時(2007年12月~09年6月の18か月)と今回のコロナショック(2019年12月~21年6月の18か月)の生産年齢人口、労働力人口(就業者、失業者)、非労働力人口の動きを比較したものが表1だ。

表1.png

就業者の減少幅だけをみると両者はさほど変わらないが、リーマンショック時には、求人数が減少するなかで就業者数が減少した。労働需要の減少が就業者数を減少させていたと考えられる。リーマンショック時は、非労働力人口がさほど増加しなかったため、労働力人口は減少せず、そのために失業者は大幅に増加した。

これに対して、今回は求人数が増加するなかで就業者が減少しており、労働需要面ではなく、労働供給面の問題が就業者を減少させている可能性が高い(図2参照)。

図2.png

今回は非労働力人口が大幅に増加し、その半面、労働力人口が減少したために失業者の増加はリーマンショック時に比べ抑えられた形になっている。

結局、経済活動が再開されつつあるなかで労働需要が盛り上がる半面、感染懸念や失業保険給付上乗せ措置により、労働供給が増えにくくなっていることが、最近の賃金上昇の原因と考えられる。

このうち、失業保険給付上乗せ措置については確かに9月までに撤廃されるだろうが、感染への懸念が払拭されない以上、労働供給が元通りになるまでは時間がかかるとみられる。 

賃金の上昇傾向は続く可能性が高いとみられる。

2021/7/5の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。

最新の記事をお届けします

Real Intelligence無料メルマガ

無料メルマガ登録

各講師のオンラインサロンや有料サービスもございます。詳しくは商品一覧ページをご確認ください。

プロフィール

新見未来

新見未来

エコノミストとして、シンクタンク、投資顧問会社などで経済分析、資金運用とアセットアロケーション業務に携わる。

会員サービスに登録して
より有益な情報を手に入れよう

富を拡大するため一流で正統派の金融リテラシー・実践的情報を
元チーフディーラー集団からお届けします

会員サービス紹介
運営会社情報
エフピーネット株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第1898号
金融商品取引業の種別:投資助言・代理業
加入協会:一般社団法人資産運用業協会
よくあるご質問お問い合わせ
Copyright © FPnet Co., Ltd. All rights reserved.