公開日 2025年7月16日

日本の景気は後退しているのか?

CI一致指数の動きだけをみても、現在の日本の景気動向を判断するのは難しい。
日本の景気は後退しているのか?

景気動向指数による景気判断は機械的な判断にすぎない

内閣府が7日に発表した5月の景気動向指数によると、CI(コンポジット・インデックス)の一致指数からみた景気の基調的判断は「悪化」となった。翌8日の日本経済新聞朝刊は「景気判断5月『悪化』、4年10か月ぶり、輸出などマイナス」と、解説付きで大きく報じた。

あたかも、5月時点で、すでに日本の景気が後退していることを伝える記事にのようにみえるが、誤解を与えるものだ。

経済分析に携わっている者であれば、これがミス・リーディングであることはわかるが、一般の人々のなかには「すでに日本の景気は後退しており、今後はトランプ関税の影響も出てくる。景気悪化はより深刻化するおそれがあるため、景気対策は不可避」と考える人も多いのではないだろうか。

CIの一致指数からみた景気の基調的判断というのは、内閣府の景気動向指数の統計のなかで行われているが、政府の公式の景気判断ではない。多少の説明が必要になるだろう。

CI一致指数は、内閣府が、鉱工業生産指数、労働投入量指数、商業販売額、営業利益、有効求人倍率、輸出数量指数など、景気の動きに連動する10個の経済指標を合成して作ったもので、景気の量感を示す指標だ。

景気の量感(大きさやテンポ)を示す指標であるため、この指数自体が景気の動向を示していると言ってよい。

例えば、同数値の水準が高ければ高いほど景気の盛り上がり度合いは大きいと判断でき、また、同数値の上昇テンポが速ければ速いほど景気拡大テンポは速いと判断することができる。

直近半年間のCI一致指数の数値をみると、2020年=100の指数で、24年12月116.4、25年1月116.3、2月117.1、3月115.8、4月116.0、5月115.9となっている。

素直に、この数値の動きをみると、25年2月にかけて景気はやや上向いたが、3月に景気はやや下向きとなり、3月以降は小幅な振れはあるもののほぼ横ばいで推移している様子が窺われる。1年前の24年5月の同指数は115.5で、今年5月は115.9だ。1年間で0.4%しか上昇しておらず、指数の上昇テンポは非常に鈍い。

このCIの動きから言えば、この1年間の景気は、方向性としてはやや上向きだが、ほとんど横這い圏だと言える。

直近半年間では、25年2月の数値が高かったが、2月のCI一致指数の数値を押し上げていたのは、10個の指標のなかで、輸出数量指数、投資財出荷指数、鉱工業生産指数などだった。

2月の数値が高かったのは、トランプ関税導入を前にした駆け込み的、前倒し的な輸出増(生産増)によるものだったと推測することができる。

CI一致指数からみた景気の基調的判断は、他の経済指標や経済動向を全く考慮することなく、CI一致指数だけの動きで、機械的になされる。

実際、CI一致指数の動きに先行するように作られた、CI先行指数の動きをみると、3月107.6のあと4月104.2と低下したが、直近5月は105.3と上昇に転じた。

4月はCI先行指数に採用されている、東証株価指数の下落、消費者態度指数の下落などがCI先行指数を下落させたが、5月はその2つの指標の反発がCI先行指数を上昇させた。

先行指数が上昇していれば、それに遅れて一致指数も上昇する可能性がある。そうした状況では、通常、景気「悪化」と判断しにくいが、CI一致指数からみた景気の基調的判断は、先行指数の動きなどを含め、他の要因を考慮しないでなされる。

では、CI一致指数がどうなれば、機械的に「景気悪化」と判断されるのか。条件は簡単で、3か月以上連続して一致指数の3か月移動平均の数値が下降し、当月の前月比の符合がマイナスであれば、「悪化」となる。

CI一致指数の3か月移動平均の数値は、24年12月115.8、25年1月116.0、2月116.6、3月116.4、4月116.3、5月115.9となっている。確かに、2月をピークに「3か月移動平均の数値は3か月連続して下降」した。

移動平均の数値でみるのは、単月の動きでは不規則な動きも含まれているため、移動平均値をとることにより、基調の変化をつかむことができるからだ。

また、CI一致指数は4月116.0、5月115.9で前月比マイナス0.1%となり、「当月の前月比の符合はマイナス」となった。この結果、CI一致指数による景気判断は「悪化」となった。

CI一致指数による景気判断の「悪化」は、「景気後退の可能性が高い」ことを意味する。

「景気後退」と言えるためには、景気悪化が各方面に波及し、
景気悪化の程度が大きくなり、景気悪化の期間が長くなる必要がある

では、今回のCI一致指数の数値は、本当に景気後退を示唆していると言えるのか。結論から言えば、現状の同数値の動きだけでは何とも言えない。

今後、景気が後退局面に陥るかどうかは、「トランプ関税などの影響によって景気がどうなっていくか」にかかっている。

トランプ関税の影響が限定的であれば、景気は後退しないだろうし、トランプ関税の影響が大きければ、景気は後退に向かうだろう。

言い換えれば、景気が本当に後退局面入りするかどうかは今後の景気次第、というトートロジーのような答えにしかならない。

景気が後退局面に入ったかどうかの形式的な最終判断は、内閣府に設置される「景気動向指数研究会」の議論で、景気のピークとボトムの年月を決めるという作業を通じて行われる。

ただ、景気のピーク時を決める同研究会が開催されるのが、かなり後で、ほとんどの人が忘れた頃に行われるため、この最終判断がどうなるかはあまり意味がない。

基本的に「景気後退」と判断されるためには、
(1)景気悪化の動きが各方面(分野)に波及し、
(2)全体としての景気の落ち込みが程度が大きくなり、
(3)景気悪化の期間がある程度長く、
ならなければならない。

現在の状況をみてみよう。

(1)景気悪化の動きが各方面(分野)に波及しているかどうか

まず、景気悪化の動きが各方面(分野)に波及しているかどうか、という点では、景気後退の条件をクリアしていると言えるかもしれない。

CI一致指数に採用されている10個の指標のうち、ほとんどの指標は、かなり前から頭打ちになっているためだ。景気減速の動きが各分野に「波及している」かどうかの判断に利用されるのは、ヒストリカルDI(ディフージョン・インデックス)とよばれる数値だ。

通常、DIというのは、採用系列(景気動向指数の一致指数は10個の指標で構成されている)のなかで、いくつの系列が上昇(下落)しているかによって、計算される。

例えば、10個の指標のうち、すべてが上昇していればDIは100%、すべてが低下していればDIは0%、10個のうち5つが上昇していればDIは50%となる。

「ヒストリカル」DIというのは、10個の指標について、月ごとの動きではなく、直近の最高値までの動きを「上昇」(+)とし、それ以後に動きを「低下」(―)として、DIの数値を計算する。

そして、ヒストリカルDIが10%程度まで低下すれば、景気悪化の動きが各方面に波及していると考え、「景気後退」の第1の条件がクリアされる。CI一致指数の各系列の動きからヒストリカルDIを試算してみよう。

実は、驚くべきことに、一致指数に採用されている10個の指標のうち、生産関連の4指標、労働投入量指数、小売業販売、有効求人倍率、輸出数量指数の計8指標は、一昨年の2023年に、すでにピークを打って、その後、緩やかな下落傾向を辿っている。

10個のうち8つが2023年中に上昇(+)から低下(-)に転換していたことになる。「各方面への波及度合い」という点で言えば、23年中に景気はほとんど景気後退すれすれの状況だった、というのがCI一致指標の示唆だ。

ただ、景気の実感は、CI一致指数が示唆するほど悪いものではなかっただろう。製造業の生産関連指標などを中心に景気動向を判断しようとするCI一致指数では、サービス業中心に好調な現在の景気動向を判断しにくくなっている可能性もある。

10個のうち上昇していた残る2つのうち、卸売業販売は昨年7月にピークを打って、その後下落基調(-)となった。結局、24年8月時点で、ヒストリカルDIは10%に低下していた。

10個の指標のうち、現在上向き(+)で推移している指標は、営業利益だけで、結果として、ヒストリカルDIは10%という状況は続いている。

ちなみに、営業利益のデータは、まだ3月までのデータしか発表されておらず、4月以降の数値が発表されるのは法人企業統計が発表される9月月初となる。

製造業の生産関連指標を中心に景気を判断しようとするCI一致指数の採用系列が日本経済の実態を反映しなくなっているといった問題はあるにせよ、(1)の景気悪化の波及度合いという点では、形式的に景気後退の条件がクリアできていることになる。

(2)景気の落ち込みの程度

次に、(2)の景気の落ち込みの程度がどの程度かという点だが、これは、景気の強さを示す数値である、CI一致指数の動きで測ることができる。

戦後の景気後退のなかでCI一致指数の下落率が最も小さかったのは1985年6月~1986年11月の景気後退局面であり、その時のCI一致指数の下落率は3.3%だった。今回は、CI一致指数のピークは25年2月の117.1だった。

採用系列のうち多くが23年中に頭打ちになるなかで、25年2月まで一致指数を押し上げてきたのは営業利益だった。だが、2月から5月(115.9)までの下落率は1.0%と小幅な下落にとどまる。

しかも、2月の数値が高かったのは、トランプ関税の発動を前にした、駆け込み的、前倒し的な輸出、生産の一時的な急増であるとすれば、2月と5月を比べることは、形式的な意味しかないかもしれない。

景気の落ち込みの程度という第2の条件は現状ではクリアできていないと言っていいだろう。

その点で言えば、今後、トランプ関税などの影響で、景気が悪化すれば景気後退になりうるし、そうでなければ景気後退にならない、ということしか言えなくなる。

(3)景気悪化の期間の長さ

最後に、(3)の景気悪化の期間の長さという点でも、景気後退の条件はクリアできていない。

現時点で確認できる景気悪化の期間は、CI一致指数の数字が最も高かった25年2月が景気の山だったすると、25年5月までの3か月しか経っていない。

戦後の景気後退のなかで景気後退期間が最も短かったのは、1951年6月~同10月の4か月であり、今はまだ「長さ」という点で、景気後退の条件を満たしていない。

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続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
2025/7/15の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。

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エコノミストとして、シンクタンク、投資顧問会社などで経済分析、資金運用とアセットアロケーション業務に携わる。

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