公開日 2023年10月2日

米国スタグフレーション化の公算

今や、賃金、物価がスパイラル的に上昇していく可能性は高まっている。それは長期金利を押し上げ、景気に悪影響を及ぼそう。程度の差はあれ、今後の米国経済はスタグフレーション化していくだろう。
米国スタグフレーション化の公算

FOMCの成長率予想は米国経済のリセッション入りの可能性低下を示唆

米国では利上げが最終局面にあるとの見方から、金利全体の上昇にも歯止めがかかるとみられていたが、逆に、長期金利の上昇はきつくなり、米10年国債利回りは4.5%台に上昇した。

この米国長期金利上昇の背景に、米財政悪化による国債格下げリスクや原油価格上昇によるインフレ懸念などがあることは事実だろう。

ただ、米国の経済・インフレ動向に関して、重要な点は、以下の事象がある。

(1)米国景気後退懸念が後退し、それに見合って来年の利下げ観測が
   先送りされていること

(2)UAW(全米自動車労組)など、大幅賃上げを求めるストライキが多発し、
   賃金上昇によるインフレの懸念が高まっている。
   そのため、仮に、景気が悪化しても1970年代のような
   賃金と物価のスパイラル的な上昇のリスクが出てきたこと

9月FOMCでのメンバーの成長率予想の中央値は、23年2.1%、24年1.5%、25年1.8%となり、前回6月時点の予想(23年1.0%、24年1.1%、25年1.8%)から、23、24予想が大幅に上方修正された。

米国の潜在成長率は1.7~1.9%程度とされており、FOMCメンバーの予想は、米国経済のリセッションがない、多少の景気悪化があったとしても軽微な調整にとどまることを示している。

これに対応して、メンバーのFF金利予想は、23年末5.6%のあと、24年末5.1%、25年末3.9%と、前回予想(24年末4.6%、25年末3.4%)から、24年、25年の予想が0.5%ポイント上方修正された。

多くの市場関係者は、ここまでの急速な利上げの影響により、今年末から来年のどこかで経済がリセッション入りするとみていた。

そして、景気後退に対応して、来年には大幅利下げが行われるはずだという見方が大勢だった。

そのため政策金利が引き上げられても長期金利は逆に低下し、長短金利が逆転するという現象が起きた。

しかし、本当に景気が後退しないのなら、将来の利下げも必要なくなり、この長短金利逆転現象は解消される。

現在のFF金利誘導水準は5.25~5.5%だが、10年国債利回りはまだ4.5%と政策金利に比べ、まだ1%ポイント弱低い。

景気後退の可能性が小さくなり、長短金利逆転が解消するとすれば、10年国債利回りは5%台に上昇してもおかしくない。

賃金、物価のスパイラル的上昇のリスクを意識する必要がある

金融市場では、それでも米国経済が悪化するという見方は根強い。

だが、ここへきて意識しなければいけないのは、米国経済が仮に悪化しても、インフレが高止まりするリスクだ。

パンデミックによるサプライ網の混乱、ロシアによるウクライナ侵攻による資源価格高騰などがもたらした一時的な物価上昇は確かに一段落した。

しかし、この物価上昇による実質賃金の目減りから労働者は賃上げ圧力を強めており、賃上げが物価を押し上げる要因となり始めた。

インフレによる実質賃金の目減りを取り戻すべく、UAW(全米自動車労組)のストライキに代表されるような、大幅賃上げを求める労働者のストライキが多発している。

そうしたストライキの結果としての大幅賃上げについては、賃金コスト増加分を生産性上昇によってカバーできなければ、コスト製品価格に転嫁され、物価上昇につながる。

物価が上昇すれば、それに対して、さらに賃上げを求めるストライキが起きる、という形で、賃金と物価のスパイラル的な上昇が起きようとしている。

ちなみに、9月15日から始まったUAWのストライキに関して言えば、UAWの当初の要求は、

  • 賃金をインフレ率と連動させる生計費調整(COLA、Cost of Living Adjustment) の導入
  • 4年間で36%の昇給、週32時間労働、電気自動車(EV)への移行に伴う雇用の確保
  • 新たに雇用された労働者の賃金を低く設定する、従業員を二分する給与体系の廃止

などだ。

このうち、1970年代の賃金・物価のスパイラル的上昇を引き起こした張本人も、COLA条項だった。

1970年代の米国で起きたことを振り返ってみよう。

1970年代の米国では、1973年の第4次中東戦争と79年のイラン革命を機に起きた2度の石油危機、1971年のニクソンショックを機とするドル安などにより、資源価格や輸入物価を中心に物価が上昇した。

このため、原油高やドル安が長期インフレの原因と言われることもあるが、原油高やドル安によるインフレだけなら、10年以上も続くはずがない。

実際に起きたのは、賃金上昇による内発的(ドメスティック)インフレだ。

原油高やドル安による一時的な物価上昇が落ち着いても、その物価上昇による実質賃金の目減りから労働者は賃上げ圧力を強め、その賃上げが物価を押し上げ、物価上昇がさらに賃金を押し上げて、賃金、物価のスパイラル的な上昇となった。

その点で、賃金をインフレ率と連動させるCOLA条項は、賃金・物価のスパイラル的上昇を長期化させる制度的な仕組みになった。

・・・

2023/10/02の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。

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新見未来

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