公開日 2024年5月22日

イランのライシ大統領の死去とその影響

イラン政府は、2023年5月20日、ヘリコプターの墜落によりライシ大統領が死亡したと発表した。ライシ大統領の死亡により体制が動揺することはない。しかし、ライシ大統領、アブドラヒアン外相が中心であった行政分野においては、何らかのほころびが生じる可能性はある。以下では、今回の事故の影響について考察する。
イランのライシ大統領の死去とその影響

イラン政府は、2023年5月20日、ヘリコプターの墜落によりライシ大統領が死亡したと発表した。墜落の原因は、悪天候による事故と説明された。

同日、イランの最高指導者ハーメネイ師は、モハンマド・モフベル第1副大統領が大統領代行に就任し、50日以内に大統領選挙を実施すると述べた。また、全国で5日間の服喪期間を設けると宣言した。

こうしたイランの対応は、憲法第131規程の「大統領の死亡、免職、辞任、2カ月以上の不在または病気の場合」は第1副大統領が代行を務めるとの内容に従ったものである。

また、代行の任命にはハーメネイ最高指導者の承認が必要とされており、この点もスムーズに実施されている。

同日、国営テレビは、立法、行政、司法の3部門の臨時会議が開催され、モフベル氏が「われわれはライシ大統領の後を継ぎ、与えられた職務を中断することなく行う」と述べたと報じている。

また、モフベル氏は、エジェイ司法長官、ガリバフ国会議長に、新大統領選出の選挙の準備をするよう命じている(なお、選挙予定は6月28日実施予定と発表された)。

さらに、この事故で死亡したアブドラヒアン外相の業務については、アリ・バゲリ・カニ外務副大臣(核問題交渉担当者)が外相代理に任命され、移行体制が整えられた。

イランでは、大統領は行政分野の長であり、国家運営における意思決定者はイスラム法学者の最高指導者である。

したがって、ライシ大統領の死亡により体制が動揺することはない。しかし、ライシ大統領、アブドラヒアン外相が中心であった行政分野においては、何らかのほころびが生じる可能性はある。

以下では、今回の事故の影響について考察する。

国内外の政策への影響

1.変化する蓋然性が高い項目

(1)経済政策
(2)ロシア関係
(3)シリア、イラク関係
(4)EU関係
(5)湾岸アラブ諸国との関係

上記の項目のうち、ライシ大統領の死去の影響が大きいと考えられるものは、(1)経済政策と(2)ロシア関係である。

経済について、同大統領は、パキスタンとの天然ガスパイプライン建設や、インドとのチャーバハール港の運営・開発などにより中央アジア諸国とインド洋を結ぶ国際南北輸送回廊(INSTIC)整備に積極的に取り組んでいた。

また、国内では、情報通信技術プロジェクトの推進に力を入れており、欧米などによる経済制裁下にあっても、経済成長が望める環境づくりに努めていた。

ロシアとの関係については、INSTIC関連や安全保障分野でプーチン大統領との信頼関係を強めていた。

後継者が、経済、外交分野でライシ大統領と同様の信頼を築くには時間を要すると考えられる。

(3)シリア、イラク関係、(4)EU関係、(5)湾岸アラブ諸国関係については、アブドラヒアン外相が数多くの国際会議に出席し、そのかたわらで外相レベルの会談や電話会談で、ガザ紛争など重要事項について協議を重ねてきた。

その中でつくられた人脈が失われた影響は小さくないと考えられる。

2.変化する蓋然性があまり高くない項目

(1)イスラム体制内の対立
(2)人権抑圧
(3)核開発及びミサイル開発
(4)イスラエル関係
(5)米国、イギリス関係

大統領選挙実施までの期間が短いことや、現在の国会議員、革命防衛隊の動向を踏まえれば、次期大統領の政治は、現在の保守強硬派(より厳格にイスラムの教義に従った国家運営を目指す)体制とあまり変わらないものになると考えられる。

国内では、上記の(1)(2)に大きな変化がないことから、スカーフ問題、マイノリティ問題などの人権関連での市民の抗議活動は低レベルでも続く。

外交面では、イスラエル、米国、イギリスとの対立構図は維持され、安全保障関連で、核開発、武器開発・輸出(ミサイル、無人機)が争点となり続ける。

3.変化する蓋然性がほぼない項目

(1)親イラン武装組織への支援
(2)中国関係
(3)グローバルサウス関係

イスラエルによるパレスチナ、シリア、レバノンでの占領が続く限り、イスラエルに対する抵抗戦線は維持される。

また、欧米が構築した現在の国際秩序は不公正・不平等だとのイランの主張に変化はないと考えられるため、中国、グローバルサウスとの良好な関係づくりは今後も変わらないといえる。

ハーメネイ師の後継者問題への影響

ハーメネイ最高指導者は、1981年にラジャイ大統領の暗殺により後任の大統領に選出され、1985年に再選されたことで、その地位を固め、1989年6月4日に最高指導者に選ばれた。

1939年4月生まれのハーメネイ師は85歳と高齢になっており、今回の事故により最有力候補であったライシ大統領が死去したことで、次期最高指導者問題が注目されている。

6月28日に大統領選挙が予定されているが、次期大統領が、ハーメネイ師がたどったように最高指導者への道を歩む蓋然性は高くないと考えられる。

「イスラム法学者の統治」を原則とするイランでは、最高指導者となる人物は、政治実務能力とイスラム法学の解釈能力を有することが求められる。

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全文を読みたい方は「イーグルフライ」をご覧ください。
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
(この記事は2024年5月21日に書かれたものです)

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プロフィール

水口章

水口章

外務省主管財団法人中東調査会上席研究員などを経て、敬愛大学国際学部教授。同大学総合地域研究所所長。法務省難民審査参与員。 湾岸戦争、米国同時多発テロ、イラク戦争、「イスラム国」(IS)問題など、中東地域関連問題についてマスメディアで解説してきた。

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