公開日 2023年11月7日

イスラエル・ハマス紛争鎮静化後のガザ地区のシナリオ

今回のイスラエル・ガザ紛争により、「ひとつの地に2国家共存」という国際社会が抱いてきた和平の理想が、武力により打ち砕かれつつあることといえる。そして国際社会にパレスチナ問題に関する政策の大きな見直しを迫っているといえる。
イスラエル・ハマス紛争鎮静化後のガザ地区のシナリオ

10月7日のハマスによるイスラエル攻撃から1カ月近く経った現在も、イスラエルとハマス間の戦闘は続いている。

イスラエル側は、今回、3段階の作戦計画を立てているとされる。

この作戦は、ガラント国防相が10月20日に国会の外交・国防委員会で説明した第1段階「ハマスのインフラ破壊」を終え、同月29日から第2段階「抵抗勢力が集まる場所の排除」に入っており、11月2日にはガザ市の包囲を完了し、地下トンネルを破壊する特殊作戦がはじまっている。

イスラエル軍の空爆をはじめとするガザ地区への攻撃では、同地区の多くの民間人が巻き込まれており、国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、パレスチナ側の死者は9485人、負傷者は2万4173人(11月5日時点)に上っている。

残念ながら、今後も紛争の双方の犠牲者は増加することが予想される。

イスラエルの作戦の第3段階は、「イスラエル市民にとっての新しい安全保障の実現の確立」とされており、すでに同国のメディアなどで、緩衝地帯の設置やガザ地区住民のシナイ半島北部への移動が報じられはじめている。

イスラエルのガザ攻撃に関しては、救国政権内部でも作戦の目的であるハマスの壊滅をどう評価し、作戦を終了するかについての意見が分かれており、戦闘後のガザ地区の統治についての構想でも意見対立があると報じられている。

前者の問題については、ガザ地区の民間人とイスラム過激主義者を区分してハマスを壊滅することは不可能であることから、ハマスのヤヒヤ・シンワル指導者と軍事組織カッサム旅団のモハメド・デイフ司令官などの要人の殺害、および地下トンネル、武器庫などの軍事施設の破壊を目安にすることが落としどころになると考えられる。

また、後者のガザ地区の統治では、いくつかのシナリオが考えられる。

以下に、10月30日に有識者の研究会で筆者が発表した「イスラエル・ハマス紛争の国際社会への影響」の一部を紹介する。

(1)パレスチナ自治政府による統治シナリオ

イスラエルはガザ北部での軍事目的を達成した後、速やかにイスラエル軍を撤退させ、ガザ全域をパレスチナ自治政府(PA)が管理(警察・行政)する自治地域とし、国際社会の協力のもとでライフ・ラインの復活をはじめとする復興を進め、「平和の果実」を定着させる。

それとあわせて、パレスチナ立法評議会(PLC)や大統領選挙を実施する。こうしたガザとヨルダン川西岸の自治地域との連携強化により、PAはイスラエルとの交渉で最終地位交渉での成果を導き出す。

このシナリオでは、極右勢力と連立しているネタニヤフ政権や、今回の紛争下でその能力に疑問が投げかけられたPAのアッバース大統領の存在が阻害要因となる。

また、PA内の既得権益者が変革を望むかも疑問である。このため、ガザ復興プロセスは大きく遅れる蓋然性が高い。

(2)穏健的イスラム主義勢力による統治シナリオ

PAがガザ全域を管理する点は(1)のシナリオと同じだが、湾岸アラブ産油国(カタールやサウジなど)やトルコなどからの経済支援を受けながら、イスラエルに対する武装闘争から距離を置き、政治の舞台でイスラムの理念(公正・公平など)に基づいて地域の福祉活動などに力を注ぐイスラム主義勢力が台頭し、実質的に統治能力を高める。

この穏健的イスラム勢力は、自治のあり方ではPAや他のパレスチナ・グループと対立していたハマスと異なる協調路線をとる。

また、イスラエルの主権、生存権を承認することで紛争リスクを低下させる政策を選択する。そのことで、国際社会もこの穏健的イスラム主義勢力を警戒することなく復興支援を行う。

ただ、このシナリオの阻害要因は、穏健派ハマスと急進派ハマスの区別をすることなく一括してハマスをテロ組織と評価してきた米国やイスラエルなどが、イスラム主義とイスラム過激派を同一視して敵対的政策を選択する蓋然性が低くないことである。

(3)混乱が収束しないというシナリオ

イスラエルはガザへの軍事侵攻後、ガザ北部を安全地帯として空地化する。ガザ北部の人びとは、より過密化した南部への移住か、シナイ半島や他国で難民として移住するかの選択に迫られる。

PAはこうした状況の中でガザの統治や難民生活者への支援という役割が十分果たせなくなる。そのことで、パレスチナの人びとのPAへの信頼はさらに低下する。

また、反イスラエル感情がさらに高まり若者を中心に過激的抵抗運動が広がる。

エジプトのシシ大統領、ヨルダンのアブドゥラ2世国王は、このシナリオを恐れているとみられ、バイデン政権にパレスチナ人の自国への受け入れ拒否を伝えている。

ここでは3つのシナリオを挙げたが、政策協議では、オスロ合意で残された曖昧な点の解釈が30年という時間の経過の中で変化していることを踏まえる必要がある。

そのためには、・・・

全文を読みたい方はイーグルフライをご覧ください。
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
(この記事は2023年11月6日に書かれたものです)

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プロフィール

水口章

水口章

外務省主管財団法人中東調査会上席研究員などを経て、敬愛大学国際学部教授。同大学総合地域研究所所長。法務省難民審査参与員。 湾岸戦争、米国同時多発テロ、イラク戦争、「イスラム国」(IS)問題など、中東地域関連問題についてマスメディアで解説してきた。

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