公開日 2020年9月7日

イージスアショア配備突如停止の真相

日本政府はトランプ政権からの強い購入圧力のもと、パンフだけでイージスアショア購入を決定したことになる。これは日本の安全保障を根本から崩壊させるミスだ。
イージスアショア配備突如停止の真相

防衛省の明らかな隠蔽なり

6月15日午後5時、河野防衛相はイージスアショアの配備計画停止を突如発表した。

おそらく安倍首相と相談の上、「国会閉会直前に発表することで野党対応での時間稼ぎが出来る」との想定でのタイミングであろう。

停止の理由は、迎撃ミサイルを発射した後に燃え尽きた重さ約200キロのブースター(推進装置)が、発射した自衛隊の演習場外に落下する恐れがあるという説明だった。

防ぐには改修に2千億円の巨額と10年の歳月が必要という。だが、迎撃ミサイルを発射する事態とは核兵器を積んだ弾道ミサイルが日本に着弾する恐れがあるときだ。

広島、長崎に続く第三の被爆地が現実のものとなる国家危機にもかかわらず、演習場近くの住民被害が優先されるとは笑止千万といえる。ブースターの落下だけが配備停止の理由であれば、改修せずに発射場所の代替地を探せば済むことだ。

日本海には佐渡や粟島(いずれも新潟県)などの離島もあれば、青森から福岡まで日本海に面した長い海岸線沿いには公有地も点在している。沿岸を埋め立てても2025年の配備には間に合う。だが防衛省が代替地探しに奔走した形跡はない。

さらに奇妙なのは、現在のミサイル防衛はイージス艦が打ち漏らした時に、首都圏など各地に展開する地上発射型のPAC3ミサイルが落下する弾道ミサイルを、高度2万メートル前後の上空で迎撃するシステムだ。

失敗すればPAC3の本体が落下し、命中した場合でもブースターの落下と同じように相当量の破片が散らばることは必至だ。

ようするに現在のミサイル防衛システム上、落下物は必要悪だがイージスアショアだけは例外的に落下物を安全な地帯に誘導するようにしたいも、カネと時間がかかるから配備停止する-という支離滅裂な理屈だ。

実際の理由は明らかに違った。2017年2月、安倍首相はトランプ大統領就任後の最初の首脳会談で「武器を買ってくれ」と懇願され、同年8月の「2プラス2会合」(日米外務・防衛閣僚会合)でイージスアショアの導入が決定された。

そして18年7月、防衛省はイージスアショアの中枢部であるLRDR(長距離識別レーダー)にロッキード社のSSRと称すレーダーの採用を決定した。ところが、このSSRに「射撃管制能力」がないことを、河野防衛相が19年3月下旬に防衛装備省職員(技官)が同庁上層部に提出した報告書に目を通して初めて気が付いたのである。

どうして、これまで同報告書が日の目を見なかったのかは定かでない。日米関係を配慮してのことか、ロッキード社との今後の関係を懸念してのことか定かではない。

射撃管制能力というのは迎撃ミサイルを目標に誘導する能力のこと。イージス・システムのレーダーには飛んでくる弾道ミサイルを探知、追跡し、迎撃ミサイルをそこへ誘導して、目標へ衝突させる能力が必要。レイセオン社のレーダーではこの能力が証明されている。

イージス・アショアはイコール、BMD(弾道ミサイル防衛)のシステムゆえ、射撃管制能力がないレーダーを採用することに何の意味があるというのか。

防衛省は19年10月末、イージスアショアにロッキード社のSSRを採用することで契約(取得費用350億円)。実は先に記した通り、同省がその採用を日本として決定していたのは18年7月だったが、この時点で同省は、ロッキード社のパンフレット(性能説明書)だけで決定。当時はまだ完成品・試作品もなかたのである。

つまり、日本政府はトランプ政権からの強い購入圧力のもと、結果的にインチキなパンフだけでイージスアショア購入を決定したことになる。これは日本の安全保障を根本から崩壊させる重大なミスだ。

安倍政権は目眩ましを出してくる

皮肉にも配備停止の会見と同じ日、国際的に権威あるストックホルム国際平和研究所は、核兵器を保有する9カ国の核弾頭の数を中国は320発、北朝鮮は30~40発に増えていると公表した。

日本にとって核の脅威は深刻かつリアルであり、政府は直ちにNSC(国家安全保障会議)を開き、陸上イージスに代わる新たなミサイル防衛策の検討に入ったのは当然である。真っ先に浮上したのが敵基地攻撃力の保有案だ。

防衛省が31億円の改修費を計上してまでヘリ搭載護衛艦「いずも」の甲板を耐熱仕様にするのは、垂直離着艦ができる戦闘機F35B をいずもから出撃し、発射前の敵ミサイルを叩くためだという。

北朝鮮のミサイル技術が急激に進展(ロシア・中国の技術協力)し、さまざまな軌道の弾道ミサイルを次々に試射しているからだ。

放物線を描いて落下する弾道ミサイルを念頭に置いた今のミサイル防衛システムでは、変速軌道の新型ミサイルを撃ち落とすことは極めて難しい。航空自衛隊がF35戦闘機に搭載する長射程ミサイルの導入を進めているのも、そのためであろう。

しかし、道具があれば敵基地攻撃は可能かといえば、答えは「ノー」だ。例えば、イラクが多数の弾道ミサイルを発射した湾岸戦争(1991年)では、米軍は15センチ四方の物体を識別できる画像衛星などを使って攻撃した。

だが、イラクの弾道ミサイルはトレーラー型の発射台で移動してしまうため、攻撃の効果はあがらなかった。窮地を救ったのは、イラクに潜入し、トレーラーにレーザーを照射し、米軍のミサイルを発射台まで誘導した英軍の特殊部隊だった。

北朝鮮の場合も同じだ。今の自衛隊の能力だけで、目標をピンポイント攻撃することは困難だと言わざるを得ない。

政府(安倍政権)は9月までに代替案をまとめ、年内には外交・防衛政策の基本である「国家安全保障戦略」を改定する方針だ。その過程で重要なのは、自衛隊と米軍が共同行動するための指針(ガイドライン)を見直すことである。

現在のガイドラインでは「日本への武力攻撃」や「弾道ミサイル攻撃への対処」について、「自衛隊が主体的に作戦を実施し、米軍は自衛隊の作戦を支援する」と定められている(意外にこの定文を知っている人はいない)。

敵基地攻撃力を保有するとなれば、ガイドラインに「敵基地攻撃のための作戦」という新項目を設け、日米の役割分担を協議しなければならない。その場合、日本が核の脅威に真剣に向き合わなければ、米国の支援などおぼつかないことは明白である。

おそらく、来年1月からの通常国会では、この「国家安全保障戦略」改定案をめぐる与野党のバトル論戦となろうが、今回のイージスアショア配備停止問題をこの視点から鋭く追及出来る野党は存在しまい。

安全保障問題は選挙の票獲得につながらないからである。本音は「新型コロナ」で頭がいっぱいなり。

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プロフィール

金森薫

金森薫

国際エコノミスト。元外為・債券・株先ディーラーという実践経験を生かした経済分析、マーケット分析。

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