公開日 2023年8月9日

キッシンジャーという世紀を跨ぐ怪人

ヘンリー・キッシンジャー。御年100歳。この御人(おひと)の世界のパワーバランスと、行くえを見定める異能は他に例を見ない。
キッシンジャーという世紀を跨ぐ怪人

現実主義者という名のキーマン

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ヘンリー・キッシンジャー氏(2009年9月)
出典:Wikipedia

ヘンリー・キッシンジャー。御年100歳。もはや車イスなしには生活できないし、背筋は大きく前方に屈折し、外見上は完全な隠居老人にすぎない。

しかし、この御人(おひと)の世界のパワーバランスと、行くえを見定める異能は他に例を見ない。

米中国交回復や沖縄返還交渉で決定的な流れを演出した人物であることは周知の事実であるが、世界の有事に係わり、重要な示唆を与えてきたことは数え切れない。

一体、どう評価すべきなのか。

彼は米国外交の理論と実践の両面で多くの業績を挙げてきた人物。しかし、単なる外交の権威に留まらない。

豊富なインテリジェンスを駆使し、表と裏を巧みに使い分け、歴史の舞台を取り仕切ってきた。現在の欧米の指導者の中にも、キッシンジャーほどスケールの大きい意見を持つ人物はいない。

彼のキャリアはインテリジェンスの世界から始まっている。

1943年~46年に米陸軍兵としてドイツの駐留し(ドイツ系ユダヤ人)、防謀部隊(CIC)の軍曹(実務上のトップ)まで昇進した。ここでは東欧から逃走したナチス協力者をリクルートし、対ソ連工作に使う仕事に従事していた。

キッシンジャーは生誕から15歳までドイツにいたので、ドイツ語が堪能だった。戦後になると、ハーバード大学の大学院生時代から、情報関係を含む米政府機関のコンサルタントを務めている。

1952年にはPSB(心理戦略委員会)、1955年にはOCB(工作調整委員会)で仕事をしている。PSBやOCBは、CIAが世界各地で展開する秘密工作について審議する機関である。

その後、1961~62年はNSC(国家安全保障会議)、1965~68年は国務省でコンサルタントとして働いている。

こうしたキャリアを重ねることで、キッシンジャーは情報工作に長けた専門家になっていった。

キッシンジャーに一貫しているのは、国際社会のパワーバランスを重視する姿勢である。バランスを維持するためなら、欧米と敵対する中国やロシアに接近することも厭わない。

実際、キッシンジャーはいまも中国の習近平国家主席や、ロシアのプーチン大統領らと親交があり、情報のネットワークを維持している。

それと同時に、キッシンジャーが強烈な上昇志向の持ち主であることも見落としてはならない。

彼は米国生まれではないので、大統領にはなれない。そのため、中国やロシアとの関係を維持し、中露に関しては、自分の意見に耳を傾けざるを得ない状況をつくることで、米国内における自らのプレゼンスを高めていったと思われる。

脅威の念を持ったプーチン

現在のウクライナ戦争との関係で興味深いのは、キッシンジャーとプーチンの交流である。キッシンジャーはたびたびクレムリンでプーチン大統領と会談している。

プーチンも自伝の中で、初めてキッシンジャーに会ったときに強烈なインパクトを受けたと記している。

プーチンの自伝「ファースト・パーソン」(扶桑社)によれば、キッシンジャーとプーチンが初めて会ったのは、プーチンがサンクトペテルブルグの市長のもとで働いていたときのことだったという。

キッシンジャーが外国投資を誘致する委員会のメンバーとして、サンクトペテルブルグにやってきたので、プーチンが送迎役を務めた。

プーチンはキッシンジャーを空港まで迎えに行き、ホテルに送っていく車中で、キッシンジャーから「前はどこで働いていたか」と聞かれ、「情報機関にいました」と答えた。

しかし、キッシンジャーは一切動じることなく、「まともな人はインテリジェンスの仕事から始める。私もそうだった」と応じた。

そして、「私は、ソ連はそんなに早く東欧を放置すべきではないと考えていた。我々は世界のバランスを非常に急激に変化させている。それは望ましくない結果を招くと考えたからだ」と述べ、「正直なところ、ゴルバチョフがなぜそんなことをしたか私はわからない」と付け加えた。

プーチンはキッシンジャーがそんなことを言うとは想像もしておらず、とても驚いたと記している。そして、「キッシンジャーさんは正しい、もしソ連が急いで東欧から離脱していなければ、多くの問題は避けられていたでしょう」と応えたと記している。

ここにはキッシンジャーのバランスを旨とする世界観がよくあらわれている。

また、プーチンの信頼を得るために、あえてプーチンの立場に寄り添ったという面もあると思われる。

このようにキッシンジャーは巧みな話法によって各国の要人たちの信頼を勝ち取り、その懐に入り込んでいったのである。

ウクライナ戦争への主張

ウクライナ戦争は2014年のロシアによるクリミア併合から一続きの問題である。

キッシンジャーはクリミア併合のあと「ワシントンポスト」紙に寄稿しているが、いまから振り返ると戦争回避を考える上で一定の説得力のある議論だった。

キッシンジャーが重視していたのは、ここでもパワーバランスだった。

彼は、「ウクライナはしばしば、東側に加わるか、西側に加わるか、どちらかに決める問題として取り上げられる。しかしウクライナの存続と繁栄を目指すなら、東西どちらかの前線基地にすべきではない。東西両側の間の架け橋とすべきだ」と述べた。

そして、それを実現するために
(1)ウクライナはNATOに加盟しない
(2)国民の意思表明で、(当時の)フィンランドのように、
   ほとんどの分野で西側と協力する一方、ロシアとの敵対を避ける体制を選ぶ
などを提案している。

これは2014年時点では先進的な提言だったと思う。
キッシンジャーの言うように、 ・・・

続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
2023/08/07の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。

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金森薫

金森薫

国際エコノミスト。元外為・債券・株先ディーラーという実践経験を生かした経済分析、マーケット分析。

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