公開日 2022年11月29日

米中対峙の中での日本の立ち位置

日本は米中の危機管理が進みつつあるなかで、米中対話を促し、一層の危機管理の深化を後押しすべきである。
米中対峙の中での日本の立ち位置

国連の戦争抑止力は既に消滅

米中対立を含めて、国際政治における安全保障体制(危機管理システム)は、著しく不安定化している。いま世界は、大国や核保有国の軍事行動を抑止できないという未曾有の時代に突入しつつある。

従来の危機管理システムは主に「抑止力」を前提に組み立てられていた。

抑止力とは、攻撃されたらそれを上回る反撃を行う「意思」と「能力」を示すことで、相手国の軍事行動を抑止するという理論である。

したがって、たとえ反撃する能力があっても、反撃する意思がなければ相手国の行動を抑止することはできない。

自国が攻撃されたら必ず反撃するという意思を持ち、相手国がそれを確信すること、これこそが抑止力の大前提であると思われる。

冷戦以来、国際政治はこの前提のもとで交渉や合意を行い、危機管理を行ってきた。しかし、その大前提を根本から覆したのが、ウクライナ戦争だった。

米国・バイデン大統領は今回のウクライナ戦争で、一貫して米軍の派遣を否定してきた。問題はその理由である。

バイデンは「米国とロシアが撃ち合えば第三次世界大戦になる」など、世界大戦の危険性を繰り返し強調している。

つまり、米国がウクライナに直接介入しなかった最大の理由は、世界大戦の勃発を恐れたからだということになる。

ただ一方で、これは重大な疑念につながった。

「 大国が一方的な侵略行為をしても、世界大戦に発展するリスクがある場合、
米国(事実上の最大の覇権大国)は反撃しないのではないか 」
との疑念が生じたからだ。

そうであれば、米国の意思が疑われた時点で米国の抑止力は機能しなくなることを意味する。つまり、米国の抑止力は、少なくとも理論上、すでに破綻したということになる。

米国の抑止力が破綻すれば、それに基づく米国の「核抑止」(核兵器による抑止)や、「拡大抑止」(同盟国への抑止力の拡大)、「拡大核抑止」(核の傘)もドミノ倒しで破綻する。

その結果、国連を舞台とした国際政治は大国の軍事行動を抑止したり、大国間の戦争を回避する枠組みを失ってしまっている。

これではいつ大国間の軍事衝突が起きてもおかしくない。国際政治は危険極まりない状態で、とにかく危なっかしいかぎりである。

回避するには一刻も早く大国間の軍事衝突を避ける危機管理システムを回復しなければならないが、肝心の大国(多め国連安保理常任理事国)は米・ロ関係の悪化で動く気配はない。

そうした状況の大転換の中で日本は米中間の「第二次冷戦的関係」の渦中にある。一体、日本はどう動くべきなのか。

米中間の危機管理の現状

米中間の緊張は、ペロシ下院議長の台湾訪問によって一気に高まった。8月2日、ペロシはバイデン政権や米軍の懸念を無視して訪台を強行。

それに対して、中国は対抗措置として8月4日から10日まで、台湾を包囲する大規模な軍事演習を行なった。

一連の事件から米中間の対話チャンネルが一時的に途切れ、偶発的な衝突が危ぶまれる事態を引き起こしたのである。

しかし、水面下では米中双方が危機管理に向けて動いていた。

ペロシは訪問先のマレーシアから米軍機で台湾に向かったも、米軍機の編隊は、中国の第1列島線上を避け、わざわざフィリピンの南側まで遠回りする飛行ルートをとった。

これは、万が一にも中国軍機と衝突してはならないという米軍の判断であろう。

この事件をきっかけに、米中両国は「このままでは、いつ軍事衝突が起きてもおかしくない」と、危機感を抱き、米中間の危機管理の必要性に気付いたようだ。

実際、ペロシ訪台後の米中関係には微妙な変化が見られるようになっている。

たとえば、バイデンは9月18日にCBSテレビのインタビューで、「米軍は台湾を守るのか」との質問に対して「イエス、もし実際に前例のない攻撃があれば」と答えている。

一見、バイデンは従来の曖昧戦略を放棄して米軍の介入を約束したように取れるが「前例のない攻撃があれば」との但し書きが付いている。

これは裏返せば、「前例のある攻撃ならば米軍は介入しない」ということであり、「前例のある攻撃」とは第二次台湾海峡危機の金門砲撃のことを指す。

その程度の攻撃ならば見逃すということと判断できる。

また、バイデン政権は10月12日に国家安全保障戦略を発表したが、台湾問題については、「われわれは、いずれの側からも現状に対するいかなる一方的な変更にも反対し、
台湾の独立を支持しない」と、中国による侵攻にも台湾による独立も認めないと明記している。

一方、中国の習近平は10月の共産党大会で、「われわれは平和的統一の未来を実現しようとしているが、決して武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置をとるとい選択を残す」と演説している。

しかし、その後には「その対象は外部勢力からの干渉と、ごく少数の台湾独立分裂勢力およびその分裂活動である」という但し書きがついている。

つまり、米国が台湾独立を支援したり、台湾が独立を実行に移さない限り、武力行使はしないということである。

バイデンと習近平は、お互いのレッドラインがどこにあるかという情報を交換しているのである。

米国のレッドラインは「武力統一」、中国のレッドラインは「台湾の独立」であり、お互いに「こちらのレッドラインを越えたら軍事力を行使してでも阻止するぞ」という意思を確認し合っている。

その上で、バイデンは国家安全保障戦略に「台湾の独立を支持しない」と明記し、習近平は「平和的統一の未来を実現しようとしている」と明言しているのである。

お互いに「あなたのレッドラインを守ります」と言っているに等しい。

現在、国際政治では「抑止力」が機能しなくなりつつあるが、少なくとも米中間では「安心供与」(お互いのレッドラインを確認・尊重することで安心を与え合うこと)が
機能していると言っていい。

”ペロシ危機“を機に、米中両国は危機管理システムの構築に向かい始めたということであり、ひとまず足下での軍事的対峙という事態は考えにくくなったのではないか。

もちろん、平時の軍事対応態勢を一段と強化することの重要性に変わりはない。特に日本の態勢強化を米国から強く求められるのは当然である。

・・・

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(この記事は 2022年11月27日に書かれたものです)

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金森薫

金森薫

国際エコノミスト。元外為・債券・株先ディーラーという実践経験を生かした経済分析、マーケット分析。

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