公開日 2022年11月4日

中東地域での天然ガスをめぐる動きとEUへの影響

中東地域に関わる2つの動向を検討し、EUのエネルギー安全保障への影響について考察する。
中東地域での天然ガスをめぐる動きとEUへの影響

国際通貨基金(IMF)は、10月11日、2023年の世界の経済成長について、2.7%に鈍化するとの予測を発表した。

IMFの分析では、世界経済の約3分の1に相当する国が、2022年から2023年の間に、四半期で2期連続マイナス成長に陥るとされる。

その要因のひとつには、世界のエネルギー供給の不足がある。

EUについてみていくと、10月19日、カタールのアルカービ・エネルギー相が、EUはこの冬のエネルギーについては十分賄えるはずだが、2023年には備蓄が底をついて厳しい状況になる旨述べている。

また、10月26日には、国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長が、EUのガス市場の需給は2023年にはさらにひっ迫するだろうと指摘した。

背景には、
(1)新型コロナウイルス禍からの中国の経済回復、
(2)脱炭素化の取り組みを視野に入れたEUのなかでガス不要議論が起きており、

生産国と長期契約を結ぶことを回避していることなどがある。

ただし、EUは、2021年には天然ガス消費量の40%相当をロシアから輸入していたことから、ロシア・ウクライナ紛争によりロシア産エネルギー資源が抜けた穴を、石炭、石油、天然ガス以外のもので埋めるのは不可能だと考えられている。

また、天然ガスの調達はそう簡単ではない。

カタールのアルカービ・エネルギー相は、天然ガス事業では油田開発、液化タンク、液化輸送タンカーなどへの投資が必要で、妥当な利益を得るには25年、30年、40年先まで考える必要があり、政府がそれを支えなければ、投資家は二の足を踏むと述べている。

このため、カタールは、アジアの企業とは15年から20年の供給契約を結んでいる。こうした天然ガスをめぐり、最近、新たな動きが見られている。

1つは、10月にロシアのプーチン大統領は、トルコがヨーロッパへの天然ガス供給拠点になる可能性に言及したことである。

2つ目は、東地中海の天然ガス開発をめぐり対立してきたイスラエルとレバノンが、海上境界の確定に合意したことである。

以下では、中東地域に関わるこの2つの動向を検討し、EUのエネルギー安全保障への影響について考察する。

ヨーロッパ中部では、10月下旬、アフリカのサハラからの熱風が吹き込み、暖気に覆われる異常気象がみられている。

この冬のヨーロッパは平年に比べ暖かいとの予報もある。

しかし、天然ガス価格がさらに高騰すれば、EU加盟国の間の不協和音や各国市民の抗議活動が活発化する蓋然性は低くない。

今後の天然ガスの需給バランスは、
(1)ロシアの供給量
(2)12月4日に予定されているOPEC総会
(3)近く予定されている中国の習近平国家主席の中東訪問

などの状況によって変動する。

こうしたことからも、中東地域のエネルギー資源国とロシアの動向が注目される。

トルコとプーチン大統領の天然ガス戦略

10月13日、カザフスタンのアスタナで開催されたアジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA)に出席したトルコのエルドアン大統領は、ロシアのプーチン大統領と会談をもった。

その際、プーチン大統領は、エルドアン大統領に対し、EUへの天然ガス供給パイプライン「ノルドストリーム1」「ノルドストリーム2」「ヤマル・パイプライン」が機能停止しているなか、「トルコストリーム」(2020年開通)を使用してEUに天然ガスを供給するとの提案を行った。

さらに、トルコ領内に、トルコとガスプロムがガス供給拠点を建設することも提案した。

これにより、
(1)EUはトルコから天然ガスの購入が可能になり、
(2)トルコは天然ガス・パイプラインの通貨料金を得ることができ、
(3)さらに価格決定にも関与できることになる。

エルドアン大統領は、この会談のテレビ中継時には、同提案への回答を明示していない。

しかし、ロシアのRIA通信は、ロシアのペスコフ大統領報道官の発言として、両大統領が同提案について迅速かつ詳細な検討を行うよう、それぞれの政府に命じたと報じた。

トルコのミリエット紙(10月14日付)は、プーチン大統領の提案について、黒海回廊を通し、「トルコがヨーロッパ、アフリカ、アジアの間で新たなエネルギーの架け橋」になり、「信頼できる国としてトルコの地位を確保することになる」と報じている。

ロシア・ウクライナ紛争で、トルコは仲介役として、
(1)両国の穀物や肥料の輸出
(2)身柄拘束者の交換
(3)ザポリージャ原子力発電所の安全確保

などで実績を上げている。

エルドアン・プーチン会談を前にした10月10日には、ロシアのペスコフ報道官が、トルコを仲介役として、米国、EUと対話することがあり得るとの認識を示し、翌11日には、ラブロフ外相が国営テレビで、G20首脳会議での米国との首脳会談の可能性について、「米国側の申し出があれば検討する」とも述べていた。

トルコの仲介が期待されたが、現在、その機運は後退している。国連とトルコの仲介で実施に至った黒海経由の穀物輸出についても、穀物輸出の合意期限(11月19日)が迫る中、先行きが不透明になっている。

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メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
全文を読みたい方はイーグルフライをご覧ください。
(この記事は 2022年11月01日に書かれたものです)

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プロフィール

水口章

水口章

外務省主管財団法人中東調査会上席研究員などを経て、敬愛大学国際学部教授。同大学総合地域研究所所長。法務省難民審査参与員。 湾岸戦争、米国同時多発テロ、イラク戦争、「イスラム国」(IS)問題など、中東地域関連問題についてマスメディアで解説してきた。

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